2021-07-01から1ヶ月間の記事一覧
僕たちはいつも手をつないで歩いていた。生活に余裕はなく、将来の展望もほとんど見えていなかったけれど、僕たちはまだ若かった。喧嘩をしても、仲直りする時間はいくらでもあった。 おい、あと十八年たったら、おまえは手をつなぐ相手をうしなってしまうん…
反響する自分自身の靴音に追われるように、足早になる。南へ戻る直線の突き当たりでまた立ち止まり、耳を澄ます。——静寂。 どうしても、何者かが今この同じ迷路の中にいるような感覚が消えないのだった。自分が歩くとその者も歩き出す。自分が立ち止まるとそ…
歳三の眼の中で、夜空に噴き上がる火の粉が青空に散じる血飛沫に変じた。 姉と見た。 初めて人が死ぬのを見た、あの日からずっと——。 ――俺は人殺しだ。 あらすじ・紹介 幼き日に見た、青空に上がる真っ赤な血柱。その光景に魅せられて、土方歳三は人を殺した…
(ぼくは人ではない) 麒麟であるということの確信。 (本当に、人ではなかったんだ……) あらすじ・紹介 十二の国からなるこちらの世界では、神獣・麒麟が天命を受けて王を選ぶ。十二国のひとつ、戴国の麒麟である戴麒は生まれる前に〈触〉という天災によっ…
言葉で明確に定義できるものでも、形としてこれがそうだと示せるものでもないのに、ひとは生まれながらにして恋を恋だと知っている。 あらすじ・紹介 誰かが誰かに向ける強い想い。誰かの存在が、人生を導く星となること。恋愛とひとくくりに表現するにはあ…