本の蜜月

本のことを書きます。

2021-07-01から1ヶ月間の記事一覧

その日のまえに/重松清 命を考え、心温まり、泣ける連作短編集

僕たちはいつも手をつないで歩いていた。生活に余裕はなく、将来の展望もほとんど見えていなかったけれど、僕たちはまだ若かった。喧嘩をしても、仲直りする時間はいくらでもあった。 おい、あと十八年たったら、おまえは手をつなぐ相手をうしなってしまうん…

迷路館の殺人/綾辻行人 閉ざされた迷路の館の連続殺人、その驚きの真相

反響する自分自身の靴音に追われるように、足早になる。南へ戻る直線の突き当たりでまた立ち止まり、耳を澄ます。——静寂。 どうしても、何者かが今この同じ迷路の中にいるような感覚が消えないのだった。自分が歩くとその者も歩き出す。自分が立ち止まるとそ…

ヒトごろし/京極夏彦 人を殺したい、異端の土方歳三小説

歳三の眼の中で、夜空に噴き上がる火の粉が青空に散じる血飛沫に変じた。 姉と見た。 初めて人が死ぬのを見た、あの日からずっと——。 ――俺は人殺しだ。 あらすじ・紹介 幼き日に見た、青空に上がる真っ赤な血柱。その光景に魅せられて、土方歳三は人を殺した…

風の海 迷宮の岸/小野不由美 いとけない少年は責務を果たせるか

(ぼくは人ではない) 麒麟であるということの確信。 (本当に、人ではなかったんだ……) あらすじ・紹介 十二の国からなるこちらの世界では、神獣・麒麟が天命を受けて王を選ぶ。十二国のひとつ、戴国の麒麟である戴麒は生まれる前に〈触〉という天災によっ…

きみはポラリス/三浦しをん 苦手な人にこそ勧めたい恋愛短編集

言葉で明確に定義できるものでも、形としてこれがそうだと示せるものでもないのに、ひとは生まれながらにして恋を恋だと知っている。 あらすじ・紹介 誰かが誰かに向ける強い想い。誰かの存在が、人生を導く星となること。恋愛とひとくくりに表現するにはあ…