宿で死ぬ 旅泊ホラー傑作選/朝宮運河 編
ホテルや旅館を舞台にした旅泊ホラーを集めたアンソロジー。
あらすじ・紹介
ひっそりとたたずむ老舗の旅館や、どこか懐かしいグランド・ホテル―—。非日常に飛び込む旅の疲れを癒し、心やすらぐべき「宿」を舞台としたホラー作品は今も昔も人の心を惹きつけ続ける。その空間に満ちているのは、恐ろしさ、不気味さ、美しさ、そして……?「逃亡不可能」な短編を一挙集結!珠玉の傑作アンソロジー。(文庫裏表紙より)
初出が1958~2014と幅広い11作品を収録。オーソドックスな怪談もの、実録っぽいもの、時代ものなどバラエティ豊か。さまざまな旅先の怪異に出会える。
感想など
きれいにオチがついた作品がある一方、えっここで終わり?となるものも。ホラーはミステリーと違って謎が解ける必要がなく、盛り上がったところでふいっと終わってしまうことがある。そういう作品にはすっきりしない読後感が良いなと思えるものと、なんだか尻切れトンボに感じるものがあった。
とくに印象深かった作品、好きな作品などの感想を書く。
屍の宿/福澤徹三
感じの悪い女将、ぬるいビールに大きな蛾など、嫌な宿の描写がありそうな感じに嫌すぎてよい。不倫カップルなのでちょっといい気味だくらいに思っていたら、見事なオチだった。家主からすればとんだ迷惑。
残り火/坂東眞砂子
夫にかしずいてきた老齢の女性が一歩踏み出し、呪縛から解き放たれる話。怪現象はあるけれど人の心がメインな感じが良かった。伴侶に横柄な態度をとる人に読ませて肝を冷やさせたい。
湯煙事変/山白朝子
江戸時代の旅本作家とダメ人間な付き人の二人が旅先で不思議な体験をする。二人の程よくドライな距離感がよい。死んでしまった人たちへの切ない思いが胸にじんときた。今は写真や動画が発達して、いなくなってしまった人をありありと再現することができるけれど、心の中で色あせていってしまう寂しさは変わらないと思う。シリーズ物の一編であるようなので、他の作品も読んでみたいと思った。
螺旋階段/北野勇作
虚構と現実が交じり合うところで不気味に揺蕩う感覚が味わえた。狭い螺旋階段を降りるときの不安定な感じを思い出しながら読んだ。最近ホラーではないが下り階段が延々と続いて戻れなくなるところから始まるお話を読んでいたのでタイムリーだった。この彼のお話はどうなってしまうのだろう。
トマトと満月/小川洋子
ちょっとわけのわからない、いい意味で気持ち悪い作品。おばさんはおかしいのだが主人公もホテルもどこかおかしいし、夏の暑い日なのに背筋が寒いようなちぐはぐさがあっていやな感じだった。連作短編集の一編のようなので、続けて読んだら感想が変わるだろうか。