本の蜜月

本のことを書きます。

博士の愛した数式/小川洋子 記憶を保てない博士と家政婦母子の友情

友愛数だ。滅多に存在しない組合せだよ。フェルマーだってデカルトだって、一組ずつしか見つけられなかった。神の計らいを受けた絆で結ばれ合った数字なんだ。美しいと思わないかい?君の誕生日と、僕の手首に刻まれた数字が、これほど見事なチェーンでつながり合っているなんて

 

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あらすじ・紹介

家政婦の「私」は、ある老人を世話するために派遣される。彼は数学者であり、事故の後遺症によって80分しか記憶を保持することができなかった。博士との日々の中で、私と私の10歳の息子・ルートはたくさんのことを学び、友情を育んでゆく。

 

感想など

すごく有名だけれど読んだことのない作品のひとつで、タイトルと「記憶が保てない数学者が出てくる話」とだけ知っていた。最近知り合いから譲っていただいたので読んでみた。

とても優しいお話だった。博士は記憶が保てないことで当然様々な困難があるけれど、「私」やルートはそれを面倒がったりせずに受け入れて、当たり前の人付き合いをする。博士も多少変わったところはあっても心根の優しい人だし、メインの人物に嫌な人がいなくてストレスなく読めた。特別でないことのように書かれる「普通の思いやり」が、現実ではきっとなかなか得難いもので、こんな風でありたいなぁと思えた。

また、文章が美しかった。私は数学がとても苦手なので、数学にまつわるさまざまな話はいまいちありがたみが理解できないものが多かったのだけれど、それを語る博士の言葉選びや受け取る「私」の表現が美しくて、わからないなりにその一端に触れさせてもらった感じがした。特に、数の並びを神様のレース編みに例えるのが綺麗で好きだ。「私」のために博士は易しい言葉で説明してくれるので、難しい話をしていても鼻につく小難しさは感じないので、それもよい。

本格的に数学を勉強していたらこの本を読んでどう感じるのか、そういう人の感想も聞いてみたいと思った。