本の蜜月

本のことを書きます。

夏の庭 The Friends/湯本香樹実 少年たちとおじいさんのひと夏の交流

死んでもいい、と思えるほどの何かを、いつかぼくはできるのだろうか。たとえやりとげることはできなくても、そんな何かを見つけたいとぼくは思った。そうでなくちゃ、なんのために生きてるんだ。

 

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あらすじ

小学六年生の三人組、木元、河辺、山下は、町はずれの古い家にひとりで住んでいるおじいさんをこっそり観察することにした。もうすぐ死んでしまいそうだと噂される彼が死ぬ瞬間を見るためだ。夏休みに入り、毎日毎日おじいさんの家へ出かけるけれど、おじいさんはなかなか死にそうにない。見張っているのがばれてからは、かえって元気になっていく気がするくらいだ。少年たちとおじいさんは、だんだんと交流を深めていく。

 

感想など

子どもにも大人にも読んでほしい作品。少年たちとおじいさんの友情に胸がじーんとなる。少年たちの年頃特有の考え方や人間関係の描写がとてもリアルで、自分の子どもの頃が思い起こされて懐かしい気持ちになった。現役小学生の感想も聞いてみたい。

死ぬということを知りたいから独居老人が死ぬところを見ようという、子どもの素直な興味と残酷さから始まった関係。少年たちにとってただの観察対象だったおじいさんは少しずつ「ひとりの人間」になり、手伝いに通い詰めるうちに歳の離れた友人と言えるほど親しい関係になる。少しずつ縮まっていく距離感が微笑ましかったし、少し羨ましくなった。

家庭や学校に問題を抱え、鬱屈としたものを持つ少年たちにとって、おじいさんとの交流は心の穴を埋めてくれるものだったと思う。おじいさんの方も、少年たちと関わることで生き生きとしていく。きっと少年たちという他人の目があることで生活に張り合いが出たし、何かを教えることが楽しかったと思う。読みながらとても祖母に会いたくなった。

死ぬってどういうことなのか、始まりの問いの答えをおじいさんは最後に教えてくれる。その別れは突然でとても悲しいけれど、怖いものではなかった。おじいさんは亡くなり、おじいさんの家も取り壊しが決まり、三人はバラバラの道を歩み始める。でも彼らには決して消えない思い出と確かな成長がある。あの世に知り合いがいるんだと思ったら、夜中のトイレも怖くない。とても清々しいラストだった。

死を考えることは生を考えることだ、と私は思っている。この本でもやっぱりそうだと思えた。死について考えようとすると、生きているってどういうことなのか、どう生きていきたいかということに考えがいくのだ。私も少年たちのように何度も考えたし、これからも考え続けていきたいと思う。