本の蜜月

本のことを書きます。

きみはポラリス/三浦しをん 苦手な人にこそ勧めたい恋愛短編集

言葉で明確に定義できるものでも、形としてこれがそうだと示せるものでもないのに、ひとは生まれながらにして恋を恋だと知っている。

 

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あらすじ・紹介

誰かが誰かに向ける強い想い。誰かの存在が、人生を導く星となること。恋愛とひとくくりに表現するにはあまりに多様な心模様を描いた11編。恋人たちの愛、夫婦の愛、過去の恋と今の恋、同性愛、禁断の愛、亡くなった人への思慕、たった一度きり会った人への想い。かわいらしく微笑ましいもの、切なくて苦しいもの、一抹の狂気を感じさせるもの。心の琴線に触れるものがきっとある。

 

感想など

 どんなジャンルの本かと言われれば「恋愛小説の短編集」だけれど、コテコテのいわゆるラブストーリーではまったくない。こんな関係も恋愛って呼んでいいのか、と思わせるものもある。わたしは恋愛ものはどちらかというと苦手なのだが、この短編集は好きだ。登場人物が恋をしていてもそればかりに拘泥せず、自分の人生を生きているのが良いのだと思う。惚れた腫れたのゴタゴタや恋の駆け引き、甘々ラブラブ、そういうのを求めている人にはおすすめしません。

『きみはポラリス』というタイトルが秀逸。ポラリス北極星、旅人の指針になる星。夜空に輝く星をみて歩く方向を決めるように、特別な「きみ」の存在を胸に人生を進んでいく。こんな恋って素敵かもと素直に思わせてくれるこの短編集の魅力をよく表していると思う。

こんな関係いいなあと思うのは『森を歩く』と『優雅な生活』。こんな風に思ったことを素直に口にしたり、たまに怒ったり、馬鹿やったりしながら楽しく暮らせる相手がいい。捨松も俊明も経済的には不安定だけれど、そういう男にしか出せない魅力なのか?どうかこのままで安定してほしい。『春太の毎日』も素敵。この作品集で一番男前なのはもしかしたら春太かもしれない。

『骨片』は、亡くなった恩師の骨を隠し持つ女性の話。親族でもなく恋人ですらない人の遺骨を勝手に手に入れてもてあそぶというのは若干引いてしまうけれど、心境には共感できるものがあって面白かった。『冬の一等星』は、子どもの頃にたった一度会った人との思い出。これって恋愛か?と思うけれど雰囲気が好き。どちらももう二度と会えない人の存在が人生を照らしてくれる、まさに「きみはポラリス」な話だったと思う。

唯一好きになれないのが『ペーパークラフト』。理由は不倫ものだから。私はどうも不倫が嫌いで、不倫している登場人物がいると「こいつは悪」という色眼鏡を外すことができない。その上にどんなお涙頂戴設定を盛られようと、切々とモノローグを語られようと、最終的に不幸になれとしか思わなくなってしまう。今回の里子は悪びれもしないからなおさらだ。人生もっと経験を積んでいったらもう少し寛容になって、フィクションくらい楽しめるようになるだろうか?