本の蜜月

本のことを書きます。

クマのあたりまえ/魚住直子 動物たちと考える「生きること」

 

まず、からだを休める場所をさがそうと思った。それから、食いものをさがしに行こう。

そうやって、死ぬまではたしかに生きよう。

 

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あらすじ・紹介

不器用に生きる動物たちを主人公に、絵本のような優しい語り口で「生きること」を考えさせてくれる短編集。さらりと読めて、深く考えてしまう9編。

アパートに住むリスが正しい心のあり方を考える「たいそう立派なリス」、生き物を殺すのが好きなアオダイショウの気づき「朝の花火」、孤独な老婆が蝶に死者を思う「聞いてくれますか」、死への恐怖から石になろうとする子グマの「クマのあたりまえ」など。

 

感想など

雰囲気は児童書か絵本のようなのに、生きることや死ぬこと、自分が自分であること、どう生きるべきか、なんて哲学書のようなことを考え始めてしまう本。心の暗い部分に優しく触れるようなお話が多い。無責任に背中を押してくるわけでもなく、押しつけがましく教訓めいているわけでもなく、ただそっと触れてくれる。そんな物語たち。冒頭の引用は「光る地平線」から。若く弱いライオンが、それでも生きようと思うお話。

 「たいそう立派なリス」と「聞いてくれますか」は文庫書き下ろしだそう。前者はまじめなリスにクスッとなった。後者は胸がキュッとなり、こういう老後を送るのか、それともこういう老後すら送れないのかと考えてしまった。

群れるのが嫌いな鯉のクロエのお話「そらの青は」では、自分の見ているものと他人の見ているものが違うかもしれない不安や孤独感が語られる。私もあなたも空を見て「青い」というけれど、同じ色を見ているとは限らない、というやつだ。小学生の国語の教科書にたしか似たような話が載っていて、すごく不思議な気持ちになった。私の青とあなたの青が同じかどうかなんて、漫画みたいに魂が入れ替わりでもしなければ永遠に確かめられない。今でもときどき不思議な気持ちになる。