本の蜜月

本のことを書きます。

月の影 影の海/小野不由美 異世界の厳しい現実

——生き延びる。

生き延びて、必ず帰る。それだけが陽子に許された望みだった。 

 

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あらすじ・紹介

他人の目を気にしてばかりいる平凡な女子高生・陽子のもとに突然ケイキと名乗る男が現れる。彼は陽子を主と呼び、跪く。同時に現れた異形の獣たちからわけもわからず逃げるうちに、海の月を通り抜け、異世界へとたどり着いていた。男とはぐれてしまった陽子に次々と苦難が降りかかる。人に獣に襲われ何度も希望に裏切られ、心を荒ませながら、ただひたすら必死に生きる。なぜこの世界に連れてこられたのか、帰ることはできるのか、そして自分は一体何者なのか。生き延びた先で途轍もない運命が明らかになる。

大作ファンタジー十二国記」の本編1作目。異世界に連れてこられてしまった陽子の成長物語であり、壮大な物語の導入でもある。

 

感想など

前半はひたすらつらい。陽子は右も左もわからず翻弄され、身も心もボロボロになっていく。これはしんどいなぁ、と思い始めてから更なるどん底が何度も更新されていくので、もうやめて……という気持ちになってくる。これから読む人はどうか頑張って下巻までたどり着いてほしい。

徹底的に辛さを描くので、陽子の心の変化や成長に説得力がある。他人の顔色ばかり窺っておどおどしていた陽子が、次第に自分の心に正直に、強かになっていく。物語の冒頭と終盤の陽子はまるで別人のよう。これからの陽子のためにはきっと必要な試練だったのだろう。

とは思うものの、読み返すたびにケイキお前もうちょっとうまくやれなかったんか……と思ってしまう。コミュニケーション力をつけよう。

 

十二国記は世界観の作りこみがえげつない。シリーズの入り口として、本作では陽子の目を通して次々に世界の情報が描かれる。例えば人々の衣服や家のつくりなどの文化、暮らしぶり、自然の景観や地理、土地や戸籍や役所のこと、国の成り立ち神話等々。新たな設定に次ぐ設定、知らない単語の嵐にあっという間に飲み込まれていく。初読では陽子と一緒に未知の世界に驚き、シリーズを読み通して戻ってくるとうんうんそうそうと頷きながら楽しめる。

 

序章『魔性の子

『月の影 影の海』は十二国記の”本編”1作目で、これとは別に序章となる作品『魔性の子』がある。

魔性の子』は『月の影 影の海』よりも先に出版されたホラー作品で、十二国記本編を読んでいるかどうかで物語の受け止め方が大きく変わってくる。もしもこれから十二国記を読んでみたいという人がいたら、ホラーが平気ならばぜひ『魔性の子』から読んでみてほしい。

 

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